リメイクの誘惑

 2006年の夏、Web上で或る連載を始めました。
『リメイクの誘惑』と名付けたそれは、映画に関する読物でした。

 その連載のトップページに、僕は次のような前書きを載せました。

 すごい作品との出会いは衝撃的です。
 音楽、絵画、小説、そして映画──そんな衝撃的な感動に出会うと、僕たちはとても落ち着かない気分に襲われます。とくにそれが作曲家だったり、画家だったり、小説家だったり、映画監督だったり──つまり自分も何かを創っている人だったりすると、お尻の下がムズムズしてきて、自分でも何かをしたくなってしまうのです。ふつふつと沸き上がってくるこの居ても立ってもいられない感覚。
 これは、いったい何なのでしょうか。
 悪魔がささやくように、それは魅力的な誘惑となって、僕たちに微笑みかけてきます。
 《リメイク版》と呼ばれる映画作品が、最近、とくに多くなったように感じます。
 その《リメイク版》の製作に携わった人たち──とりわけ監督は、なぜ、その悪魔の誘惑に屈してしまったのでしょう。
 そんなことを、ときどき思ったりするのです。

 こうして始まった連載は、しかし、中途半端な形で頓挫しました。
 最終的には僕自身の「リメイク論」のようなものになる予定だった読物は、とうとう完結させることができませんでした。
 Web連載には〈理論社・ミステリーYA!〉という場所が与えられたのですが、この理論社という出版社の信じられない所行に、連載の続行は9回をもって断念せざるを得ない状況に追い込まれました。経営陣は自分たちの取り分だけを確保し、寄稿者たちやフリーの編集者にはギャランティの支払もせず、会社を倒産させました。(僕の知り合いの方たち数人も、その被害に遭いました。僕自身は、何かが妙だと感じ始めたころから、連載の間隔を広げて様子見をしていたこともあって、直接的な被害を蒙ることはありませんでした)

 9回だけの連載となりましたが、ここにその『リメイクの誘惑』を置いておきたいと思います。
 楽しいイラストは白根ゆたんぽさんが書いて下さっています。