『0の殺人』解説 ── 井上夢人

我孫子武丸『0の殺人』 1992年9月15日刊

 文庫解説で、その本が刊行されてから不安な気持ちになったのが、この我孫子さんの『0の殺人』でした。
 我孫子武丸さんはとてもストレートな小説をお書きになります。ストレートであるのと同時に、思い切った挑戦をぶつけてくるのが、僕はとても好きなのです。それで、この解説は、僕の考えをフルに展開するような形で書いたのです。
 自分では、けっこう気に入った解説になったと思っていたのですが、時間が経って読み返してみたとき、不安に襲われることになりました。作者である我孫子さん自身には、この解説がどのように映ったのだろうかと。まるで見当外れな、独りよがりのものになっているのではないかと……。