喧嘩したことない ── 井上夢人

小説現代 1992年5月号

〈妻への詫び状〉というお題をいただいたのですが、私小説の類とは縁遠い物書きにとっては、非常に難しいのです。平気でもっともらしい嘘はつけますが、ホントのことを書くのはとっても苦手です。
 自分によく似たキャラクターを作り、その行動を描写し、その心理を暴くという〈逃げ〉を打つことで片付けたりします。