担当の辞

講談社 文芸図書第二出版部 鍜治佑介

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 高校時代、一人の友人から勧められて『クラインの壺』を読みました。
 それから岡嶋二人作品を読み漁り、井上夢人作品の新刊を心待ちにする日々。
就職し、文芸局に配属され、今の部署に異動になったとき、部長との面談で「誰か担当したい作家はいる?」と聞かれました。そのときの希望が叶い、井上さんの担当をさせていただいています。

 本作は、一人の男性が、一人の女性を愛した物語です。
 連載を読み終えたとき、井上さんの企みのあまりの大きさに、あんぐりと口をあけ、しばらく呆然としてしまいました。ノートを見てみると、「アゴがはずれる」「こんなことできるのか」「信じられない。恐いくらい。」などとありました。

 小説を読む理由のひとつに、日常では体験できないような感覚に陥りたい、というのがあるかもしれません。私はこれまでの日常生活のなかに、『ラバー・ソウル』を超える驚きはありませんでした。
 どれだけ。どれだけのことを井上さんは考え、実験と検証を繰り返したのか。
 小説の内容にも、もちろん驚きました。しかし何より著者の苦労と力量に驚き、圧倒されました。
 
 圧倒されたのは私だけではありませんでした。ゲラを読んだ宣伝担当者、販売担当者、部長が魔法にかかったようにつぎつぎと集まり、『ラバー・ソウル』チームが発足しました。「やれることはぜんぶやる」というコンセプトのもと、ポスター、ポップ、パネル、発売予告HPを作成。読者モニターを募集し、IN★POCKETでの特集記事を企画し、書店員さんとのネタバレOKトークイベントを開催し……6月6日の発売日に向け、『ラバー・ソウル』の熱に浮かされた面々が着々と準備を進めていきます。

 装幀もこだわりました。デザインはnext door designの谷口さん。
 カバー装画の打合せをしているときに、谷口さんが「ずっとお願いしたいと思っていた方がいる」とぽつり。早速Ryohei Haseさんにご連絡してゲラをお送りすると、数日と経たないうちに快諾のお返事が。凄まじい迫力の絵を描いてくださいました。
 本を開いてすぐの別丁扉には、レコードスリーブのような素材の紙を使用し、目次を印刷。次の扉ページにデザインされたレコードのSIDE-Aが透けて見えます。レコードの撮影では、思い通りに光が反射せず悪戦苦闘、5時間に及ぶ撮影ののち、ようやくこれだ! という写真が撮れました。クレジットページと初出ページにはプレイヤーを置き、奥付にはSIDE-Bのレコード。
 
 完成した『ラバー・ソウル』には、この小説を最後まで読み、“井上夢人”に圧倒された人々の愛が詰まっています。
 コピーは「すべてを知り、愛した。」発売は本日、6月6日。
 日常を超える体験を、ぜひお楽しみください。