1989年 第10回吉川英治文学新人賞
授賞作:99%の誘拐
受賞者:岡嶋二人(おかじまふたり)

【各銓衡委員の選評より抜粋】

井上ひさし
出るべくして出た傑作である。/評者のようなパソコン音痴にも理解可能に書かれているところが凄腕だ。/しかもさらに旧い読者のために作者はもうひとつ古い形の誘拐をも用意する。/マイッタ、マイッタを連発しながら一気に読みました。これでユーモアがあったら100%のエンタテインメントだった。

尾崎秀樹
「犬の系譜」とは対極に位置するような作品だ。/ハイ・テク技術を縦横に駆使したアイデアのおもしろさを満喫させてくれる犯罪小説として評価する。

佐野洋
両作品(引用者注:「犬の系譜」と「99%の誘拐」)が群を抜いており、これを無視することはできなかった。/「決して読者を落胆させない作家」と一部で言われているのも故なしとしない。/岡嶋氏の集大成とも言えるもので、二つの誘拐事件についてのアイデアの妙、全体の構成の見事さなど、共作の長所が最大限に出ていると言えよう。

野坂昭如
コンピュータがらみに弱いなどと公言するのは、今やシャレにならない。/そういった当節のヤボテンを、徹頭徹尾、コンピュータを主役としたお話に、ひっぱりこんだのだから、テキながら天晴れ。/このてのお話につきものの、ことさらな残酷さのないこともけっこう。/二人であるために、少しひねり過ぎたきらいがある。

半村良
構成にも文体にも疾走感があり、選者の一人として読んでいるうちに、読者の一人にさせられてしまった。/コンピューターを使ったミステリーは、今後も増え続けるに違いないが、この作品はそれをはかる尺度のひとつになるだろう。